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親が営む旅館を、いつか自分が継ぐことになりそう。『でも、何から手をつければいいの?』と、気持ちだけが先に焦っていませんか。
結論から言うと、旅館の事業承継は家族で「誰が・いつ・何を」継ぐかを話すところから始まります。そのうえで許可や建物、借入れの見通しを立て、公的な相談窓口に早めに頼るのが近道です。
この記事を読めば、旅館を継ぐ時に引き継ぐものの全体像と、準備をどの順番で進めればいいかが分かります。
旅館の事業承継とは?継ぐのは「宿の看板」だけではない
旅館の事業承継は、経営者の立場だけでなく、営業の許可、建物や土地、借入れ、従業員、お客様とのつながりまでをまとめて次の代へ渡すことです。何を継ぐのかを一つずつ書き出すと、やることが見えてきます。
「旅館を継ぐ」と聞くと、女将や社長の肩書きが変わる場面を思い浮かべる方も多いはずです。実は、肩書きが変わるのは最後の一歩なんです。
その前に、宿を動かしているものを一つずつ次の代へ渡していく必要があります。目に見えるものと見えないものがあるので、表にしてみました。
| 継ぐもの | 中身の例 | 誰と話すか |
|---|---|---|
| 経営者の立場 | 代表者、宿の方針を決める役 | 親、家族 |
| 旅館業の許可 | 都道府県知事などから受けた営業の許可 | 宿のある地域の保健所 |
| 建物・土地 | 客室や浴場の建物、敷地、設備 | 家族、専門家 |
| 会社の株式 | 会社組織の宿なら、親が持つ株 | 税理士、都道府県の窓口 |
| 借入れ | 建物や設備のために借りたお金 | 取引のある金融機関 |
| 人 | 従業員、調理場、仲居さん | 従業員、昔からいる人 |
| お客様と地域 | 常連のお客様、取引先、温泉地の集まり | 親、女将、組合 |

個人で営む宿と、会社で営む宿で手続きが変わる
旅館業法では、旅館業を営むには都道府県知事(保健所を設置する市や特別区では市長・区長)の許可を受けると決められています。ここで大事なのが、その許可を誰が持っているかです。
親が個人事業として宿を営んでいる場合と、会社として営んでいる場合では、継ぐ時の段取りが変わります。会社組織なら株式をどう引き継ぐかが大きな話題になりますよね。
営業者が亡くなり、相続人が旅館業を続ける時は、亡くなった日から六十日以内に都道府県知事に申請して承認を受けます(第3条の4)。令和5年12月13日の改正法の施行後は、事業を譲る人と受ける人が承認を受けると、受ける人が営業者の地位を引き継げる決まり(第3条の2)もあります。
自分の宿がどちらに当てはまるかは、許可証や保健所への届けを見ると確かめられます。分からない時は、宿のある地域の保健所に聞いてみてください。
旅館の後継ぎは3つの形|家族・従業員・外の人
旅館の跡継ぎは、子どもや親族だけとは限りません。長く働く従業員が継ぐ形や、外の人や会社に引き継いでもらう形もあります。どの形にも良い面と準備がいることがあります。
『旅館は家族が継ぐもの』というイメージは強いですよね。観光庁の検討会資料でも、家業として経営を受け継ぐ旅館が多いと書かれています。
ただ、公的な相談窓口の支援メニューを見ると、親族への承継だけでなく、従業員への承継や、後継者がいない時に外の人へ引き継ぐ支援も用意されています。
| 後継ぎの形 | どんな形か | 準備で気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 家族・親族が継ぐ | 子どもや、子どもの配偶者などが経営を引き継ぐ | 継ぐ本人の気持ちと、ほかの家族の気持ちをそろえる |
| 従業員が継ぐ | 長く働いてきた支配人や番頭、仲居頭などが引き継ぐ | 株や建物を買い取る資金と、家族の納得 |
| 外の人・会社に引き継ぐ | 宿を譲り受けたい人や会社とつながって引き継ぐ | 宿の名前や従業員をどう残すかの取り決め |

家族が継ぐ時は「継ぐ本人の気持ち」から
親の宿を継ぐかどうかは、継ぐ本人の人生にも大きく関わります。『本当は別の仕事を続けたい』という気持ちがあるなら、早めに言葉にしておきましょう。
例えば、こんな切り出し方なら角が立ちにくいはずです。
「宿のこと、一度ちゃんと話したいんだけど、今度の休みに時間もらえる?」
「いいよ。お父さんも気にしてたから、ちょうどよかった」
外の人に引き継ぐのは「宿を残す」選択肢
中小機構の事業承継・引継ぎポータルには、「後継者人材バンク」という仕組みが紹介されています。創業を目指す起業家と、後継者がいない会社や個人事業主を引き合わせるものです。
家族が継がない選択をしても、宿を閉じる以外の道があるんです。旅館の後継ぎがいないと悩んでいる家は、この選択肢も話題に出しておくと気持ちが楽になります。
継ぐ前の準備を4つに分けて時間軸で見る
承継の準備は「人」「経営」「資産」「お客様と地域」の4つに分けると、抜けが減ります。それぞれ、継ぐと決めた時、準備を進める期間、交代の直前、交代した後にやることが違います。
『準備って言われても、全部いっぺんには無理…』と感じますよね。ここが大事なところですが、全部を同時に進める必要はありません。
何年かけるかは宿や家によって違うので、この記事では年数ではなく段階で区切っています。自分の宿の予定に当てはめて使ってみてください。
| 時期 | 人(後継者・従業員) | 経営(数字・取引先) | 資産(建物・株) | お客様と地域 |
|---|---|---|---|---|
| 継ぐと決めた時 | 継ぐ人と、女将の役を担う人を家族で決める | 決算書と予約の動きを一緒に見せてもらう | 許可の名義、建物と土地の持ち主を確かめる | 親から常連のお客様の話を聞き始める |
| 準備を進める期間 | 現場の仕事を一通り受け持ち、従業員と話す機会を増やす | 取引先や金融機関に顔を出す | 借入れの残りと返し方、株の持ち方を専門家と相談する | 組合や温泉地の集まりに一緒に出る |
| 交代の直前 | 従業員に交代の時期と体制を伝える | 取引先に代表者が変わることを知らせる | 許可や名義の手続きの段取りを保健所や専門家と決める | 常連のお客様へのお知らせを準備する |
| 交代した後 | 先代がどこまで関わるかを決めて守る | 自分の名前で取引を続ける | 届けや名義の変更が済んだか確かめる | 新しい代としてご挨拶を重ねる |
「人」の準備がいちばん時間がかかる
数字や手続きは、窓口や専門家に聞けば進めやすい話です。一方で、従業員との信頼は時間をかけて積み上げるしかありません。
昔から働く人にとって、新しい代は『この人についていけるかな』と見られる立場です。現場の仕事を一緒にこなして、話を聞く時間をつくっておきましょう。
「資産」は早めに中身を見せてもらう
建物の持ち主や借入れの残りは、家族でも聞きにくい話題ですよね。それでも、知らないまま継ぐと、あとで判断に困ることがあります。
- 旅館業の許可証と、許可を受けている人の名前
- 直近の決算書や、確定申告の控え
- 借入れの返し方が分かる書類
- 建物と土地の持ち主が分かる書類
- 会社なら、誰が何株を持っているかの一覧
『いきなり書類を見せてと言うのは気が引ける』という方は、「相談窓口に行く前に一緒に確かめたい」と伝えると話しやすくなりますよ。
旅館を継ぐ時の進め方と、使える制度
家族の話し合い、今の状態の確認、公的窓口への相談、承継の計画づくり、許可や名義の手続き、まわりへのお知らせ、の順に進めると迷いにくくなります。税金の制度は要件が細かいので、専門家と確かめながら使います。
ここからは、実際の進め方を順番にまとめます。宿の規模によって細かい手順は変わりますが、大まかな流れはこの形です。
- 家族で、誰が・いつ・何を継ぐかを話し合う
- 許可・建物・借入れ・株式など、今の状態を書き出す
- 事業承継・引継ぎ支援センターなどの窓口に相談する
- 事業承継の計画をつくり、家族と専門家で共有する
- 許可の承継や名義の変更など、必要な手続きの段取りを決める
- 従業員、取引先、常連のお客様に代替わりを知らせる
- 新しい代として宿を動かし、先代の関わり方を見直す

事業承継・引継ぎ支援センターは最初の相談先
中小企業庁によると、全国47都道府県に公的な相談窓口として「事業承継・引継ぎ支援センター」が置かれています。中小企業の事業承継のさまざまな相談に応じてくれる窓口です。
親族や従業員に引き継ぐための事業承継計画づくりや、後継者がいない時に譲り受けたい人や会社とつなぐ支援も行っています。まずはお住まいの都道府県のセンターに相談するよう案内されています。
会社組織の旅館なら、事業承継税制も確かめる
会社として営む旅館なら、法人版事業承継税制(特例措置)が使える場合があります。中小企業庁の説明では、非上場の会社の株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。
| 項目 | 中小企業庁のページの記載 |
|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 平成30年4月1日から令和9年9月30日までに都道府県へ提出 |
| 対象になる贈与・相続 | 平成30年1月1日から令和9年12月31日まで |
| 引き継ぐ相手 | 親族外も含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)へ |
| 猶予の割合 | 対象株式数の上限を撤廃し、猶予割合を100%に拡大 |
事業承継税制は、使えるかどうかの要件がとても細かい制度です。個人事業として営む宿の場合の扱いも含めて、税理士や都道府県の窓口で確かめてから進めましょう。
会社と家族で宿の仕事をどう分けるかは、女将と旅館経営でも紹介しています。
公的な資料で見る、旅館の承継が難しくなりやすい理由
観光庁の検討会資料では、家業として受け継ぐ宿が多いこと、借入れへの依存が大きく承継が進みにくいこと、人手不足が課題として挙げられています。うちだけの悩みではない、と知っておくと気持ちが少し軽くなります。
『継ぐと決めたのに、うまく進まない』と悩む方もいますよね。実は、旅館の承継が進みにくいことは国の資料でも課題として取り上げられています。
観光庁の検討会の「とりまとめ骨子(案)」には、宿泊業の課題として次の3つが挙げられています。
| 課題 | 資料に書かれていること | 継ぐ人が意識したいこと |
|---|---|---|
| 家業的な経営形態 | 宿泊事業者の6割以上は資本金1千万円未満の小規模事業者で、家業として経営を受け継ぐ旅館が多い | 家族の話し合いだけで決めず、外の意見も入れる |
| 事業承継や事業譲渡の停滞 | 装置産業であることもあり、小規模事業者ほど借入金への依存度が高く、承継や譲渡が進みにくい | 借入れの中身を早く知り、金融機関とも話す |
| 担い手不足 | 1日の拘束時間が長い、休暇をとりづらいなどの労働環境が人手不足の一因 | 継いだ後の働き方も、計画に入れておく |
同じ資料の今後の方向性には、「所有と経営の分離」などの事業の見直しが挙げられています。次の世代を担う後継者を中長期的に計画的に育て、円滑な承継を促すことも書かれています。
建物や土地を持つ人と、宿を動かす人を分ける考え方です。例えば、家族が建物を持ち続け、運営は別の人に任せる形などが考えられます。自分の宿に合うかどうかは、窓口や専門家と相談しながら見てみてください。
つまり、時間をかけて後継ぎを育てることは、国の資料でも大事だとされているんです。焦らず、段階を踏んで進めていけば大丈夫ですよ。
旅館の後継ぎについてよくある相談
後継ぎの悩みは、結婚、名義、後継者がいない、の3つが特によく話題になります。どれも一人で抱えずに、家族と窓口の両方に話すことで道が見えてきます。
旅館の後継ぎに関する相談には、家族の気持ちと手続きの話が混ざったものが多くあります。よく見かける相談を、まとめて紹介しますね。
「後継ぎの自分と結婚する相手に、宿の仕事をどこまで求めていいの?」
老舗旅館の後継ぎの方から、結婚を考えている相手に宿のことをどう伝えればいいか、という相談が多く寄せられています。相手が宿の仕事に入るかどうかで、話がこじれてしまうこともあるようです。
結論から言うと、結婚相手が若女将として宿に入るかどうかは、家ごとに決めていいことです。外で仕事を続ける形もありますし、時期を見て関わり方を変える形もあります。
『うちの親は、当然入ってもらうと思っているはず』と感じる時こそ、先に自分と相手の希望をそろえてから親と話してみてください。結婚前に話し合いたいことは旅館に嫁ぐということにまとめています。
「家族に後継ぎがいない宿は、閉めるしかないの?」
民宿などで後継ぎがいなくて困る、家族でないと継がせたくないものなのか、という相談もあります。家族に継いでほしい気持ちはごく自然なものです。
ただ、先に紹介したように、従業員への承継や、外の人へ引き継ぐ支援も公的な窓口で扱っています。宿を残したい気持ちがあるなら、閉める前に一度相談してみる価値はありますよ。
「宿を手放したのに、許可の名義が自分のままだった」
自分が持っていた宿を売ったものの、旅館業の許可が個人の名義のまま残っていた、という相談も見られます。宿を譲る時は、建物の名義と営業の許可の名義が別の話になることがあるんです。
令和5年12月13日施行の改正後の旅館業法では、事業を譲る人と受ける人が承認を受けると、営業者の地位を引き継げる決まりがあります。譲る時や継ぐ時は、許可がどうなるのかを早めに保健所へ問い合わせておくと安心です。
- 許可を受けているのが、個人か会社か
- 建物・土地の持ち主と、許可の持ち主が同じか
- 代替わりや譲渡の時に、どんな申請が必要か
継ぐ前に、ほかの旅館で働いて経験を積む道もある
家業の旅館を継ぐ前に、別の宿で働いてみる人もいます。外の宿で仕事の回し方を見ておくと、自分の宿を客観的に見る目が育ちます。
『いずれ継ぐなら、最初から家の宿で働いたほうがいいのでは?』と迷う方もいますよね。どちらが正しいということはありません。
家の宿で親のそばで学ぶ良さもあれば、ほかの宿でまったく違うやり方に触れる良さもあります。
- 常連のお客様や従業員と早くから顔なじみになれる
- 宿のしきたりや、親のやり方を近くで見られる
- 交代までの準備を一緒に進めやすい
- ほかの宿のやり方を知る機会が少ない
- 家族の会話と仕事の話が混ざりやすい
- 従業員から「家の人」として遠慮されることもある
外の宿では、フロントや仲居、支配人の下で働く経験を積めます。大きな宿で部門ごとの動き方を見てから戻ると、自分の宿の良さにも気づきやすくなります。
若女将としての学び方や、修行の場の選び方は若女将とはでも紹介しています。
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よくある質問
旅館の事業承継は、何から始めればいいですか?
まず家族で、誰が・いつ・何を継ぐかを話し合うところから始めます。そのうえで、許可や建物、借入れなど今の状態を書き出し、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な窓口に相談すると、次にやることが見えてきます。
親が亡くなった後に旅館を継ぐ時の手続きは?
旅館業法では、営業者が亡くなり相続人が旅館業を続ける時は、亡くなった日から六十日以内に都道府県知事に申請して承認を受けると決められています。細かい手続きは宿のある地域の保健所に確かめてください。
旅館の跡継ぎが家族にいない時はどうすればいいですか?
従業員に引き継ぐ形や、宿を譲り受けたい人・会社とつながって引き継ぐ形があります。事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者がいない時のマッチング支援も行っています。
旅館を継ぐのに資格は必要ですか?
女将や経営者になる条件として決まった国家資格は見当たりません。ただ、宿の営業には旅館業の許可が必要で、継ぐ時には許可の承継の手続きがあります。役立つ資格は別の記事で紹介しています。
継ぐかどうか、まだ迷っています。
迷っている気持ちも、家族に伝えていいことです。継ぐかどうかを決める前に、宿の今の状態を一緒に見せてもらったり、ほかの宿で働いてみたりするのも、判断の材料になります。
まとめ
- 旅館の事業承継では、肩書きだけでなく許可・建物・借入れ・人・お客様とのつながりを引き継ぐ
- 後継ぎは家族だけでなく、従業員や外の人・会社に引き継ぐ形もある
- 準備は「人・経営・資産・お客様と地域」に分け、段階ごとに進める
- 相続による承継は死亡後六十日以内の申請、事業譲渡は承認で営業者の地位を引き継げる
- 最初の相談先は事業承継・引継ぎ支援センター、税金は税理士や都道府県の窓口へ
旅館を継ぐことは、宿の歴史を受け取ることでもあります。女将という役割そのものについては、女将とはで紹介しています。





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