女将と旅館経営|経営者として女将が担う仕事と社長との役割分担

女将と旅館経営を紹介する記事のアイキャッチ。帳場の帳簿と着物の手元

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旅館の家に入ることになって、『女将って、経営にはどこまで関わるの?』と気になっていませんか。社長である夫や親と、どう仕事を分ければいいのか迷いますよね。

結論から言うと、旅館経営の中での女将の役割は、宿ごとの「社長との分け方」で決まります。接客をまとめる女将もいれば、女将自身が社長として数字まで見ている宿もあるんです。

この記事では、家族経営の旅館で社長と女将がどう仕事を分けているかを3つの型で比べ、困った時の相談先まで紹介します。

目次

旅館経営の中で、女将はどんな立場?

先に結論

女将は「接客をまとめる人」として宿の顔になる立場です。そのうえで、経営にどこまで関わるかは宿によって大きく違います。女将が社長を兼ねる宿もあれば、女将を置かない宿もあります。

辞書の「おかみ」の項には、大きな所では経営者の一族の女性が女将になり、主に接客関係をまとめる職名にもなっている、と補足されています。

つまり女将は、もともと「経営者の家族として接客を任される人」として生まれた呼び名なんです。ただ、今の宿はそれだけではありません。

女将のあり方経営との関わりよく見られる宿
女将が社長を兼ねる予算や借入れなど、経営の判断を自分で下す女将が家業を継いだ宿、夫婦で女将が代表になった宿
社長の家族として女将を務める接客と従業員をまとめ、経営は社長と相談して進める家族で営む中小の旅館
女将の役を従業員が担う、または置かない接客の責任者として働き、経営には関わらないことも多い会社組織の宿、支配人が全体を見る宿

『女将なら経営のこともできなきゃいけないの?』と不安になる方もいるはずです。そんなことはありません。

どこまで担うかは、宿の大きさと家族の考え方で決まります。女将の役割そのものは女将とは?で、意味から紹介しています。

旅館という商売の今の姿

旅館業法では、旅館とホテルの営業の種類が統合され、今は「旅館・ホテル営業」という1つの区分になっています。法律の上では、和風か洋風かで分けていないんです。

厚生労働省の衛生行政報告例によると、令和6年度末の旅館・ホテル営業は52,946施設でした。その中に、家族で営む小さな宿から大きな会社組織の宿まで、いろいろな形が含まれています。

女将を置かない宿もある

今は男性が経営と接客の両方を担う宿や、支配人が館内をまとめる宿もあります。女将がいるかどうかは、宿の良し悪しとは関係ありません。

家族経営の旅館で、社長と女将はどう分けている?

「数字」「人」「お客様」「地域」の4つの持ち場で考えると分けやすい

家族経営の旅館の仕事は、4つの持ち場に分けて「誰が最終的に決めるか」を書き出すと整理できます。分け方には大きく3つの型があります。

『うちは何となく夫が経営、私が接客、という感じで…』という方も多いですよね。実は、その「何となく」がすれ違いのもとになりやすいんです。

まずは、旅館経営の仕事を4つの持ち場に分けてみましょう。

持ち場中身の例
数字宿泊料金の決め方、予約の動き、仕入れ、借入れ、設備の修繕の時期
人採用、シフト、従業員の教育、仲居や調理場との調整
お客様お出迎え・お見送り、ご要望への対応、お詫び、常連のお客様とのつながり
地域旅館組合や温泉地の集まり、地域の行事、宿の発信
家族経営の旅館の仕事を数字・人・お客様・地域の4つの持ち場に分け、社長と女将の分担の3つの型を比べた図解

社長と女将の分担、3つの型を比べる

4つの持ち場を、社長と女将がどう受け持つかで比べると、次の3つの型に分かれます。どの型が正しいというものではありません。

持ち場型1 社長が数字、女将がおもて型2 女将が社長を兼ねる型3 夫婦で同じ重さの共同経営
数字社長女将2人で話して決める
人社長と女将で分ける女将(支配人に任せる部分も)調理場は一方、接客は一方
お客様女将女将女将が中心、社長も前に出る
地域社長が組合、女将が女将の会女将行事ごとに分ける
向く宿社長が調理や設備に強い宿女将が家業を継いだ宿客室の少ない小さな宿

『どれがうちに合うんだろう』と迷ったら、今の宿で「最後に決めているのは誰か」を持ち場ごとに書いてみてください。それが今の型です。

型1:社長が数字、女将がおもての顔

いちばん昔からある分け方です。社長が料金や設備投資を決め、女将がお客様と従業員の前に立ちます。

例えば、繁忙期の料金を決める時は、こんなやりとりになります。

「来月の連休、去年より少し料金を上げようと思うんだけど」

「それなら、お部屋に季節のお花を足して、夕食のご挨拶も丁寧にしますね」

女将は数字を決めないかわりに、お客様の声を社長に届ける役になります。この橋渡しがうまくいくと、経営の判断がぶれにくくなるんです。

型2:女将が社長を兼ねる

女将が家業を継いだ宿や、代替わりで女将が代表になった宿で見られる形です。旅館の女性経営者として、数字もおもても女将が見ます。

1人で抱える分、支配人や番頭に任せる範囲をはっきりさせるのが大事です。役職の関係は旅館の役職と組織で紹介しています。

例えば、夕方の忙しい時間に業者さんから見積もりの電話が来たら、こんなふうに分けておくと慌てずにすみます。

「女将さん、修繕の見積もりの件でお電話です」

「今はお出迎えの時間だから、明日の午前に折り返しますとお伝えしてね」

数字の話は時間を決めてまとめて受け、お客様の前に立つ時間は崩さない。社長を兼ねる女将さんが続けやすいのは、こうした線引きがある時なんです。

旅館の帳場で予約帳と帳簿を確かめる、経営者を兼ねる女将の手元をイメージした写真

型3:夫婦で同じ重さの共同経営

客室の少ない宿では、夫婦が2人で全部を回していることも多いんです。調理は一方、接客は一方、と得意で分けるのが一般的です。

この型のよいところは、2人とも宿の全部を知っていることです。どちらかが休む日でも、もう一方が代わりに回せます。

一方で、2人とも同じだけ疲れやすいのが悩みどころです。お客様の少ない日を決めて、交代で休む工夫をしている宿もあります。

よくあるすれ違い

型3では「相手がやってくれていると思っていた」という抜けが起きやすくなります。予約の返事や仕入れの発注など、毎日の作業ほど担当を決めておきましょう。

分担を決める時に話し合っておきたいこと
  • 4つの持ち場ごとに、最後に決める人を決める
  • お金を使う時に、相談がいる金額の線を決める
  • お客様からのお詫びの対応で、前に出る順番を決める
  • 組合や地域の集まりに、誰が出るかを決める
  • 休む日と、家で仕事の話をしない時間を決める

女将が社長として旅館を経営する時の仕事

経営者になると、法律の上での「営業者」としての責任が加わる

旅館の社長と女将を兼ねると、おもてなしに加えて、旅館業の許可を受けた営業者としての決まりごとにも向き合うことになります。ここは家族の誰かが代わりに覚えておけばいい、とは言いにくい部分です。

『社長になったら、何が今と変わるの?』と気になりますよね。いちばん大きいのは、宿の決まりごとの責任者になることなんです。

旅館業法では、旅館業を営むには都道府県知事など(保健所を設置する市や特別区では市長・区長)の許可を受けることが定められています。

ほかにも、経営者として押さえておきたい決まりがあります。

決まりごと中身(旅館業法の内容)女将の仕事とのつながり
宿泊者名簿宿泊者の氏名・住所・連絡先などを名簿に記載する帳場でお客様に記入をお願いする
宿泊を断れる場合負担が重すぎる要求を繰り返した時などが加わった断る時は客観的な事実で判断し、求めに応じて理由を丁寧に説明できるようにする
従業者への研修特に配慮を要する宿泊者に合ったサービスのため、研修の機会を与えるよう努める女将が従業員の学びの場をつくる
相続による承継営業者が亡くなり相続人が続ける時は、死亡後60日以内に申請して承認を受ける代替わりの準備に関わる
事業譲渡による承継譲渡する人と受ける人が承認を受けると、営業者の地位を受け継げる第三者に宿を引き継ぐ時に関わる

宿泊を断れる場合や研修の努力義務は、令和5年12月13日に施行された改正で加わった内容です。

経営者になった女将の1週間の仕事の例

経営者になると、接客の合間に「数字を見る時間」をつくることになります。ここでは、ある週の仕事の組み方を例にしました。

社長を兼ねる女将の仕事の組み方の例
  1. 週のはじめに、予約の入り方と空いている部屋を確かめる
  2. 料理長と、仕入れと献立の打ち合わせをする
  3. 支配人や仲居頭と、シフトと団体のお客様の段取りを決める
  4. 夕方はお出迎えとご挨拶に立ち、お客様の声を聞く
  5. 週の終わりに売上と経費を見て、翌週の動きを決める

『数字は苦手で…』という方もいますよね。最初から全部できなくても大丈夫です。

税理士など外の専門家に相談しながら覚えていく経営者も多いんです。分からないことを早めに聞ける相手を持っておくと安心ですよ。

社長と女将を兼ねる時に、手放したい仕事

1人で全部をやろうとすると、どこかで手が回らなくなります。経営者になったら、任せる仕事を決めるのも大事な仕事です。

女将が持ち続けたい仕事
  • 宿の方針とおもてなしの考え方を決める
  • 大事なお客様へのご挨拶とお詫び
  • お金を使う判断と、借入れの相談
任せやすい仕事
  • 毎日のシフトづくりと細かな指示
  • 決まった流れの予約の受付や返信
  • 備品の発注と在庫の確認

公的統計で見る、今の旅館経営

数字は「宿の外の動き」をつかむために見る

旅館経営の数字は、自分の宿の帳簿だけでなく、国が出している統計でもつかめます。客室の埋まり方やお客様の顔ぶれの変化を知っておくと、料金や人の配置を考える時の手がかりになります。

『統計なんて、うちのような小さな宿には関係ないのでは』と思うかもしれません。ただ、まわりの流れを知っておくと、家族で話す時の共通の土台になるんです。

観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年・年間値の確定値)では、旅館の客室稼働率は38.2%でした。リゾートホテルは56.9%、ビジネスホテルは75.3%です。

年旅館の客室稼働率
2019年39.6%
2022年33.1%
2023年36.7%
2024年36.1%
2025年38.2%

旅館は、ほかの宿泊施設に比べて客室の埋まり方が低めです。平日や閑散期の過ごし方が、旅館経営の大きな話題になりやすいんです。

同じ調査で、2025年の外国人の延べ宿泊者数は1億7,992万人泊、前年比で9.4%増えていました。外国人のお客様への対応は旅館の外国人のお客様への対応で紹介しています。

観光庁の宿泊旅行統計調査による旅館の客室稼働率の推移を示した図解

人の面で見ておきたい数字

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、「宿泊業,飲食サービス業」の所定内給与額(残業代や賞与を除く)の平均は277.2千円でした。産業別でいちばん低い水準です。

令和7年の雇用動向調査では、同じ産業の入職率は27.8%、離職率は23.7%でした。人の入れ替わりが多い業界なんです。

観光庁の検討会で挙がった課題

観光庁の検討会資料(とりまとめ骨子案)では、宿泊業の課題として「家業的な経営形態」「事業承継や事業譲渡の停滞」「低生産性・担い手不足」の3つが挙げられています。宿泊事業者の6割以上が資本金1千万円未満の小規模事業者とされています。

同じ資料では、後継者を中長期で育てることや、女性・高齢者・外国人を含めた多様な人材の確保が方向性として挙げられています。女将や家族だけで抱え込まない経営が求められているんです。

観光庁は、宿泊業の高付加価値化に向けた経営ガイドラインや、人手不足を補う設備投資を支援する補助事業も出しています。補助の内容は年度や公募回で変わるので、観光庁のページで最新の公募を確かめてみてください。

旅館の家族経営でよくある相談

質問サイトには、家族で旅館を営む方や、これから関わる方からの相談がたくさん寄せられています。閲覧の多いものから、この記事のテーマに合う3つを選んでお答えしますね。

相談1:家族で民宿や旅館を経営するのは大変?どんな苦労がある?

家族で宿を営んでいる人に、大変なことや苦労を聞きたいという質問です。

大変さとしてよく挙がるのは、休みが取りにくいことと、仕事と家の区切りがつきにくいことです。お客様がいる日は、家族全員が朝から夜まで宿のことを考えることになりますよね。

だからこそ、休む日を先に決めてしまう宿も多いんです。定休日を設けたり、閑散期にまとめて休んだりと、宿に合った休み方を家族で話してみてください。

相談2:家族で旅館を経営している人は、どこに住んでいるの?

旅館の敷地の中に住まいがあるのか、離れた場所に家があるのかを知りたいという質問です。

これは宿によって本当にさまざまです。館内や敷地の一角に住まいがある宿もあれば、近くに家を別に持っている宿もあります。

住まいが近いと急な対応はしやすい一方、気が休まりにくいこともあります。これから旅館の家に入る方は、住まいのことも早めに聞いておくと安心ですよ。

相談3:親が経営する二食付きの旅館で、手伝いとして料理を担当している

経営者は親で、自分は手伝いの立場で料理を受け持っているが、この先どう関わればいいか、という相談です。

手伝いの立場でも、料理という大事な持ち場を担っているのは大きな力です。まずは、親と「どこまでを自分が決めていいか」を話してみてください。

仕入れや献立を少しずつ任せてもらうと、数字の持ち場にも自然と関われます。代替わりを見すえるなら、家業の継ぎ方を紹介した旅館の家業を継ぐも参考になります。

代替わりと事業承継、困った時の相談先は?

早めに話し始めて、外の窓口も使う

旅館の代替わりは、許可の承継や株式、借入れなど、家族だけでは決めきれないことが多い話です。早めに家族で話し始め、公的な窓口や専門家にも相談しながら進めましょう。

『まだ先の話だから』と思っていても、準備には時間がかかります。親が元気なうちに話しておくのがいちばんなんです。

代替わりの前に家族で話しておきたいこと
  • 次に経営者になる人と、女将の役を担う人を決める
  • 宿の名義や株式を、誰にどう引き継ぐかを考える
  • 借入れの状況を、次の代と一緒に確かめる
  • 大女将になる人が、どこまで宿に関わるかを決める
  • 親族以外に引き継ぐ選択肢も、話題に出しておく
相談したいこと相談先の例
親族への承継の計画づくり、後継者がいない時の引き継ぎ先探し事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県)
旅館業の許可の承継宿のある地域の保健所
株式の相続や贈与の税金税理士、都道府県の窓口
借入れや設備の修繕の資金取引のある金融機関

中小企業庁によると、事業承継・引継ぎ支援センターは中小企業の事業承継の公的な相談窓口です。事業承継計画づくりや、後継者がいない時の引き継ぎ先とのマッチングを手伝ってくれます。

会社組織の旅館なら、法人版事業承継税制(特例措置)で株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予・免除される場合があります。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日までとされています。

要件はとても細かいので、使えるかどうかは税理士や都道府県の窓口で確かめてください。家族で営む宿の継ぎ方は旅館の家業を継ぐで詳しく紹介しています。

女将の交代の時期や、引き継ぎの進め方は女将の交代と代替わりでも紹介しています。

旅館の経営に関わる前に、現場で経験を積む道もある

『いきなり経営なんて自信がない』という方は、まず別の宿で働いて、現場の回し方を見てみるのもひとつの方法です。仲居やフロント、支配人の下で働くと、数字と人の動きが毎日見えるようになります。

旅館の仕事は、ハローワークや求人サイト、宿の公式サイトの募集でも探せます。宿泊業界の求人に詳しい転職支援サービスに相談してみる方法もあります。

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なぜ旅館には女将という仕事が続いてきたのかは、旅館に女将がいるのはなぜ?で紹介しています。女将の毎日の仕事は女将の仕事内容にまとめています。

よくある質問

旅館の社長と女将は、どちらが立場が上なのですか?

宿によって違います。社長が経営を決め、女将が接客をまとめる宿もあれば、女将が社長を兼ねる宿もあります。会社組織の宿なら、役職や登記で決まっていることが多いです。

女将が旅館の経営者になることはできますか?

できます。女将が家業を継いだ宿や、代替わりで女将が代表になった宿もあります。経営者になると、旅館業の営業者としての決まりごとにも向き合うことになります。

家族経営の旅館で、女将は数字にどこまで関わるべきですか?

決まりはありません。社長が数字を見る型なら、女将は予約の動きやお客様の声を伝える役で十分です。いつか経営を継ぐ予定があるなら、早めに帳簿や予約の数字を一緒に見ておくと安心です。

旅館経営の相談はどこにすればいいですか?

代替わりや後継者探しなら事業承継・引継ぎ支援センター、許可の承継なら保健所、税金なら税理士が相談先になります。借入れや資金のことは、取引のある金融機関にも相談できます。

まとめ

この記事の要点
  • 旅館経営の中での女将の役割は、社長との分け方で宿ごとに違う
  • 仕事を「数字」「人」「お客様」「地域」の4つの持ち場に分けると、分担を話し合いやすい
  • 分担には「社長が数字・女将がおもて」「女将が社長を兼ねる」「夫婦で共同経営」の3つの型がある
  • 女将が社長になると、旅館業の営業者としての決まりごとの責任者にもなる
  • 代替わりは早めに家族で話し、事業承継・引継ぎ支援センターなど外の窓口も使う
女将ガイド

女将ガイド 編集部

旅館の女将・若女将の仕事と役割、女将になるまでの道のり、着物や立ち居振る舞い、旅館のしきたりとおもてなし、旅館・料亭で働く方法までを、やさしく整理している情報サイトです。 公式サイト

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