女将のおもてなしとは|おもてなしの意味と旅館での実践

旅館のおもてなしを紹介する記事のアイキャッチ。旅館の客室でひざ掛けを差し出す着物の手元

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旅館で働いていると、『おもてなしって、結局どういうことなんだろう』と考える瞬間がありますよね。言葉はよく聞くのに、いざ説明しようとすると難しいものです。

結論から言うと、旅館のおもてなしは「お客様の様子を察して、先回りし、時には控える」という3つの動きの組み合わせです。特別な才能より、毎日の小さな気づきの積み重ねなんです。

この記事では、おもてなしの意味と、女将や仲居が旅館でどんなおもてなしをしているのかを、場面ごとの例と合わせて紹介します。

目次

おもてなしとは?意味をやさしく言うと

先に結論

おもてなしとは、お客様を心をこめて迎え、その人に合わせてお世話をすることを指す言葉です。決まった手順をこなすことより、相手を思って動くことに重きがあります。

おもてなしの意味を子どもに聞かれたら、「来てくれた人に、また来たいなと思ってもらえるように、心をこめてお世話すること」と答えると伝わりやすいかもしれません。

一般社団法人日本旅館協会の英語サイトでは、旅館は時代に合わせて「おもてなし(Japanese-style hospitality)」を進化させてきた、と紹介されています。おもてなしは、旅館の魅力を語る時の大事な言葉なんです。

サービス・ホスピタリティとの違い

『おもてなしとサービスって、何が違うの?』と迷う方も多いですよね。よく使われる3つの言葉を、旅館の場面で比べてみました。

言葉旅館での使われ方のイメージ旅館での例
サービス宿として決まった内容を提供すること夕食の提供、お布団の用意、送迎
ホスピタリティ相手を思いやる気持ちや姿勢困っている様子に気づいて声をかける
おもてなし思いやりを、その人に合わせた形にすること寒そうなお客様に、言われる前にひざ掛けを持っていく

3つの言葉の境目は、人や場面によって使い方が少しずつ違います。この記事では、「サービスの上に、その人に合わせた気配りを重ねたもの」をおもてなしと考えて話を進めますね。

旅館のおもてなしは、何が特別なの?

1組のお客様に長く寄り添えること

旅館のおもてなしの特徴は、到着から出発まで、同じお客様に長い時間寄り添えることです。お部屋で食事をお出しする宿も多く、お客様との距離が近いぶん、気配りが届きやすいんです。

旅館では、お出迎えからお部屋へのご案内、夕食、お布団、朝食、お見送りまで、お客様とふれあう場面が何度もあります。そのひとつひとつが、おもてなしを形にする機会になります。

日本旅館協会の会員資格基準規程には、会員に向けて、親切丁寧なサービスの提供に努めることが書かれています。あわせて、旅客ひとりひとりの価値観や文化、地域の慣習の多様性に配慮し、価値観の押し付けによる差別や排除を行わないことも求めています。

おもてなしは「押し付けない」ことも含む

同じ規程で、多様性への配慮と価値観を押し付けないことが求められているのは、おもてなしを考える上でも大事な視点です。宿が良いと思うことを一方的に届けるのではなく、そのお客様にとって心地よいかを考えるのが、旅館のおもてなしの土台になります。

大きな旅館と家族で営む小さな宿では

おもてなしの形は、宿の規模によっても変わります。どちらが良いということではなく、それぞれに合ったやり方があるんです。

比べること家族で営む小さな宿大きな旅館
お客様との距離女将や家族が、ひとりひとりと長く話せる担当の仲居が中心になってお世話する
得意なこと前回のお泊まりを覚えていて、自然に話題にできる誰が担当しても同じ質でお迎えできる
大事になることその日の様子に合わせて、すぐにやり方を変えるスタッフどうしの情報の受け渡し
女将の役割自分でお客様の前に立つ時間が長い宿全体の気配りがそろっているかを見る

どちらが良いということではなく、得意なところの違いとして見てください。

旅館のおもてなしが表れる場面

旅館のおもてなしは、目立つ演出より、さりげない場面に表れることが多いです。

場面おもてなしが表れるところ
お出迎えお名前でお呼びする、長旅をねぎらう
お部屋季節の花を生ける、温度や明るさを整えておく
夕食苦手な食材を避ける、食べる速さに合わせてお出しする
お布団お客様が戻る時間に合わせて用意する
お見送り帰りの道や天気をひと言添える

お出迎えとお見送りの具体的な流れは、旅館のお出迎えとお見送りで詳しく紹介しています。

おもてなしを「察する」「先回りする」「控える」の3つで見る

おもてなしは3つの動きでできている

おもてなしを分けてみると、お客様の様子に気づく「察する」、言われる前に用意する「先回りする」、あえて手を出さない「控える」の3つの動きになります。どれか1つではなく、場面ごとに使い分けるのがコツです。

おもてなしを、察する・先回りする・控えるの3つの動きに分けて場面の例と合わせて示した図解

「おもてなしの心を持ちましょう」と言われても、何をすればいいか分かりにくいですよね。動きに分けると、新しく入った人でも何をすればいいかが見えやすくなります。

察する:お客様の様子に気づく

察するのは、お客様が口にしていないことに気づく動きです。表情や荷物、話し方、天気などが手がかりになります。

例えば、こんな場面です。

  • 雨の中を着いたお客様の、肩や足元がぬれていることに気づく
  • 夕食の箸の進みがゆっくりなことに気づく
  • ご家族の中で、お子様が眠そうにしていることに気づく

察する力は、生まれつきのものではありません。「今日はどんな方がいらっしゃるか」を前もって知っておくと、気づける量がぐっと増えるんです。

手がかり気づけること
荷物の量や形連泊か、お祝いの品を持っているか
話し方や声の大きさにぎやかに過ごしたいか、静かに過ごしたいか
服装や足元寒さや暑さ、歩きやすさ
食事の進み方量が多すぎないか、苦手なものはないか

先回りする:言われる前に用意する

先回りは、察したことをもとに、お客様が頼む前に動くことです。

「お足元がぬれてしまいましたね。よろしければこちらのタオルをお使いください」

こうしたひと言とともに、タオルをさっと差し出せると、お客様は「見ていてくれた」と感じやすいんです。

ほかにも、先回りにはこんな形があります。

  • 眠そうなお子様がいるご家族には、お布団の用意を早めに伺う
  • 翌朝早く出発されると伺ったら、お会計の書類を前の晩に用意しておく
  • 写真を撮っているご夫婦に「お撮りしましょうか」と声をかける

先回りの言葉は、「〜しておきました」より「〜いたしましょうか」と伺う形にすると、お客様が断りやすくなりますよ。

控える:あえて手を出さない

控えるは、おもてなしの中でいちばん見落とされやすい動きです。お客様が静かに過ごしたい時は、声をかけすぎず、そっとしておくのもおもてなしになります。

『何もしないのは、手抜きにならない?』と思うかもしれませんね。ただ、気づいたうえで控えるのと、気づかずに放っておくのとでは、まったく違うんです。

例えば、ご夫婦が窓辺で景色を眺めながら話し込んでいる時。お茶のおかわりに入るのを少し待つだけで、お二人の時間を守れます。

控えたあとも、何かあればすぐ動けるように、近くで気にかけておくのがポイントです。

場面ごとの3つの動きと、やりすぎの境目

旅館のよくある場面で、3つの動きと「ここを越えるとやりすぎ」になる境目を表にしました。

場面察する先回りする控えるやりすぎになる境目
到着長旅で疲れている様子すぐにお部屋へご案内館内の説明は短く玄関で長く引きとめる
お部屋くつろぎたい様子お茶をお出しして退室必要以上に入らない何度も様子を見に入る
夕食会話が弾んでいる次の料理の時間を合わせる説明は短く切り上げる話の途中で長く説明する
記念日ご夫婦で静かに祝いたいお部屋に小さな花を飾る大勢でお祝いに行かない本人が望まない演出をする
お見送り出発を急いでいるお車を先に回しておく長い挨拶はしない時間をとらせて引きとめる

記念日のお客様は、とくに境目に迷いやすい場面です。お祝いの気持ちを伝えたい時は、まず控えめなひと言から始めてみてください。

「本日はおめでとうございます。ささやかですが、お部屋にお花をご用意いたしました」

お客様がうれしそうに話してくださったら、そこから少しずつ会話を広げれば大丈夫です。反応が控えめなら、それ以上は踏み込まずに見守りましょう。

よくある失敗

先回りが行きすぎると、お客様の「自分で決めたい」気持ちを奪ってしまうことがあります。迷った時は、「よろしければ」と一度お客様に選んでもらうと、押し付けになりにくいですよ。

おもてなしがやりすぎになっていないかを確かめるチェックリストの図解

女将のおもてなし、毎日の中で何をしている?

女将は「宿全体のおもてなし」を整える

女将のおもてなしは、自分がお客様の前に立つことだけではありません。お客様の情報を集め、仲居や調理場と分け合い、宿全体で同じ気持ちでお迎えできるように整える役割も大きいんです。

女将の仕事のうち、お客様から見えるのはお出迎えやご挨拶です。ただ、その裏では、おもてなしの準備がたくさん進んでいます。

女将のおもてなしが形になるまで
  1. 予約の時に伺ったこと(記念日、苦手な食べ物、到着時間)を確かめる
  2. 前にお泊まりになったお客様なら、前回のメモを読み返す
  3. 担当の仲居や調理場に、お客様のことを伝えておく
  4. お部屋の花やしつらえを、季節やお客様に合わせて整える
  5. 滞在中に気づいたことを、次のお泊まりのためにメモに残す

お客様のことを覚えておく工夫は、顧客ノートとお客様情報の扱い方で紹介しています。女将の仕事全体の中での位置づけは女将の仕事内容も読んでみてください。

おもてなしを宿のみんなで受け継ぐ

女将ひとりがどれだけ気を配っても、宿のみんなが同じ気持ちでなければ、お客様には届きにくいものです。だからこそ、新しく入った人におもてなしの考え方を伝えるのも、女将の大事な仕事になります。

例えば、朝の打ち合わせでこんな話をする宿もあります。

「今日の〇〇様は記念日のご旅行です。お祝いは夕食の時に、お部屋の担当から静かにお伝えしましょう」

こうした具体的なひと言があると、新しい人も何に気を配ればいいかが分かります。おもてなしは、言葉で伝えて、一緒に動いて覚えていくものなんです。

言葉にもおもてなしが表れる

おもてなしは、言葉遣いにも表れます。同じお願いでも、ひと言添えるだけで受け取り方が変わるんです。

例えば、「こちらにお名前をお書きください」より、「恐れ入りますが、こちらにお名前をお願いできますか」の方が、やわらかく伝わります。旅館で使う言葉の例は、女将の言葉遣いにまとめています。

女将のおもてなしは、宿ごとに違っていい

女将が玄関に立つ宿もあれば、女将を置かずにスタッフみんなでお迎えする宿もあります。男性の経営者がお客様の前に立つ宿もあります。

おもてなしの形は、宿の規模や方針で違って当然です。『うちの宿は他と違うけど大丈夫?』と心配しなくても、自分の宿のお客様に合った形を見つければいいんですよ。

いろいろなお客様へのおもてなし

「その人にとっての心地よさ」から考える

お客様の国や文化、食の習慣、旅の目的はさまざまです。決まった型をあてはめるより、そのお客様に合わせて考えるのがおもてなしの基本です。

旅館には、ご家族や一人旅の方、海外からのお客様など、いろいろな方がいらっしゃいます。それぞれで気を配るところが少しずつ違います。

お客様気を配りたいことひと言の例
小さなお子様連れ段差やお風呂の温度、食事の時間「お子様用の食器もご用意できます」
一人旅の方静かに過ごしたいか、話したいか「何かございましたら、いつでもお声がけください」
年配のご夫婦階段や移動の距離、ゆっくりした説明「お部屋までゆっくりまいりましょう」
海外からのお客様館内の決まりの分かりやすい説明短い言葉と身ぶりで伝える

食の習慣や文化への配慮

観光庁は、飲食店や宿泊施設などの関係者向けに「多様な食文化・食習慣を有する外国人客への対応マニュアル」を公開しています。国や宗教、地域ごとの食文化・食習慣をまとめた内容です。

あわせて「ムスリムおもてなしガイドブック」(平成27年)と増補版(平成30年)、「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」も公開されています。食事の準備で迷った時の参考になりますよ。

食の習慣について伺う時のポイント
  • 予約の時に、食べられない食材がないかを伺う
  • 「差し支えなければ」と添えて、理由まで無理に聞かない
  • 伺ったことを、調理場と担当の仲居に伝える
  • 当日、お出しする前に料理の内容をひと言説明する

海外からのお客様への声かけは、旅館の外国人のお客様への対応でも紹介しています。

旅館の客室に季節の花が生けられ、座卓にお茶の用意が整えられた様子の写真

おもてなしについて知るうちに、旅館で働いてみたい気持ちが出てきた方もいるかもしれません。旅館やホテルの仕事を探す時は、宿泊業界の求人に詳しい相談先を使う方法もあります。

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ハローワークや、気になる宿の公式サイトの募集から探すのも良い方法です。自分に合った探し方で、一歩ずつ進めてみてください。

おもてなしについてのよくある相談

「意味」と「どこまでするか」の相談が多い

おもてなしという言葉については、意味を知りたいという相談と、どこまでするのがいいのかという相談がよく寄せられています。代表的なものに答えますね。

サービス業でよく聞く「おもてなし」は、どういう意味?

サービス業でよく使われる「おもてなし」とは、どういう意味なのか、という相談はとても多く見かけます。

この記事の考え方でいうと、決まったサービスの上に、その人に合わせた気配りを重ねることです。例えば、夕食をお出しするのはサービスで、お客様が苦手な食材を覚えていて避けるのがおもてなし、と考えると分かりやすいですよ。

おもてなしの意味を、子どもにどう説明すればいい?

5歳のお子様に「おもてなしってなに?」と聞かれて、どう答えればいいか迷った、という相談もあります。

例えば、こんな言い方はどうでしょう。

「お友だちがおうちに来た時に、どうしたら楽しく過ごせるかなって考えて、お菓子を出したり、好きな遊びを用意したりすること」

身近な場面に置きかえると、子どもにも伝わりやすくなります。

ホスピタリティは「おもてなしの心」と同じ意味?

ホスピタリティは、おもてなしの心のような意味で合っているのか、という相談も見かけます。

大きくは近い意味で使われています。この記事では、ホスピタリティを「相手を思う気持ち」、おもてなしを「その気持ちを相手に合わせた形にすること」と分けて考えました。

気持ちが伝わりやすいおもてなし
  • お客様の様子を見てから動く
  • 迷ったら「よろしければ」と選んでもらう
  • 静かに過ごしたい方にはそっとしておく
押し付けになりやすいおもてなし
  • 決まった手順をそのまま全員に行う
  • お客様が望まない演出を続ける
  • 気づかないまま放っておく

よくある質問

旅館のおもてなしとは、具体的に何をすることですか?

お出迎えでお名前をお呼びする、季節の花を飾る、苦手な食材を避けるなど、その人に合わせた気配りを重ねることです。何をするかは、宿の方針やお客様によって変わります。

女将のおもてなしは、仲居のおもてなしと何が違いますか?

仲居は担当のお客様のそばでお世話をし、女将は宿全体のおもてなしを整える役割を担うことが多いです。お客様の情報を分け合い、宿として同じ気持ちでお迎えできるようにします。

おもてなしのサービスは、料金に含まれているのですか?

宿泊料金にどこまで含まれるかは、宿ごとの決まりによります。ただ、おもてなしは料金の対価というより、宿の心がけとして行われているものと考えると分かりやすいです。

おもてなしとサービスの違いは何ですか?

この記事では、宿として決まった内容を提供するのがサービス、その上にお客様ひとりひとりに合わせた気配りを重ねるのがおもてなし、と考えています。言葉の使い分けは人や場面によって少しずつ違います。

おもてなしが苦手でも、旅館で働けますか?

働けます。おもてなしは、察する・先回りする・控えるの3つの動きを、毎日の仕事の中で少しずつ覚えていくものです。最初は先輩のやり方を見て真似するところから始める人が多いです。

まとめ

この記事の要点
  • おもてなしとは、お客様を心をこめて迎え、その人に合わせてお世話をすること
  • 旅館のおもてなしは、到着から出発まで同じお客様に長く寄り添えるのが特徴
  • おもてなしは、察する・先回りする・控えるの3つの動きで考えると分かりやすい
  • 先回りが行きすぎると押し付けになるので、迷ったら選んでもらう
  • 女将は、お客様の情報を分け合い、宿全体のおもてなしを整える役割も担う
女将ガイド

女将ガイド 編集部

旅館の女将・若女将の仕事と役割、女将になるまでの道のり、着物や立ち居振る舞い、旅館のしきたりとおもてなし、旅館・料亭で働く方法までを、やさしく整理している情報サイトです。 公式サイト

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