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旅館の玄関に入った瞬間、季節の花がふわっと目に入ると、それだけで気持ちがほどけますよね。『あの花は誰が、どうやって選んでいるんだろう』と気になった方も多いはずです。
結論から言うと、旅館の生け花やしつらえは、上手に生けることよりも「季節を感じてもらう場所を決めて、毎日整えること」が大切です。
この記事を読むと、玄関から客室の床の間まで、場所ごとに何をどう飾ればいいかが分かります。
旅館の生け花としつらえは、何のためにあるの?
旅館の花やしつらえは、お客様に季節とおもてなしの気持ちを伝えるためのものです。豪華さより、その日の季節とお客様に合っているかが大事にされます。
『しつらえって、そもそもどういう意味?』と思う方もいますよね。言葉の意味を、生け花や床の間とあわせて確かめておきましょう。
| 言葉 | 辞書での意味 | 旅館での使われ方 |
|---|---|---|
| 生け花 | 木の枝や草花を切りとり、形を整えて花器にさすこと。華道 | 玄関や客室に季節の花を生ける |
| しつらい(しつらえ) | 調度や設備を設え整えること。支度 | 花、掛け軸、置物などで部屋を整える |
| 床の間 | 座敷の床を一段高くし、掛け軸・置物・花などを飾る所 | 客室の中で季節を見せる中心の場所 |
しつらいは、平安時代に晴れの日の儀式で部屋に調度を置いて飾ったことに由来する言葉です。今の旅館でいう「しつらえ」も、お客様を迎える日のために部屋を整える、という気持ちが元になっているんです。
旅館の客室に床の間が多い理由
日本旅館協会の会員資格の基準には、客室に床の間か、それに代わるデザインの造作があることが挙げられています。旅館の和室に床の間が多いのは、季節を飾る場所を大切にしてきたからとも言えますね。
女将の仕事全体の中でのしつらえの役割は、女将とは?旅館で女将が担う役割で紹介しています。
玄関・帳場まわり・客室の床の間・廊下、4か所で考える季節のしつらえ
館内のしつらえは、玄関・帳場まわり・客室の床の間・廊下の4か所に分けて考えると、何を飾ればいいかが決めやすくなります。全部を同じ華やかさにしなくて大丈夫です。
花を飾る場所が多いと、『どこから手をつければいいの?』と迷いますよね。まずは場所ごとに、お客様がどんな気持ちでそこを通るかを考えてみてください。
| 場所 | お客様の気持ち | しつらえの役割 |
|---|---|---|
| 玄関 | 着いたばかりで少し緊張している | 季節と歓迎の気持ちをひと目で伝える |
| 帳場まわり | 受付を待っている、話しかけたい | 会話のきっかけになる小さな飾り |
| 客室の床の間 | 部屋に入ってくつろぎ始める | ゆっくり眺められる季節の景色 |
| 廊下 | 大浴場や食事処へ移動している | 歩きながら目に入る、さりげない花 |

春夏秋冬の飾りの例
季節ごとの飾りに、決まった正解はありません。ここでは、4か所それぞれで取り入れやすい例を挙げてみます。
| 季節 | 玄関 | 帳場まわり | 客室の床の間 | 廊下 |
|---|---|---|---|---|
| 春 | 桜や桃の枝を大きめに | ひな飾りや小さな菜の花 | 若葉の枝と春の掛け軸 | 一輪挿しに菜の花 |
| 夏 | 青もみじの枝で涼しさを | ガラスの器にほおずき | 朝顔や水辺の掛け軸 | 竹の花入れに夏草 |
| 秋 | ススキや紅葉した枝 | 栗や柿の実もの | 桔梗と月の掛け軸 | 吾亦紅など細い秋草 |
| 冬 | 松や南天で落ち着いた色 | 干支の置物や水仙 | 椿と雪景色の掛け軸 | 一輪の椿 |
花の種類や飾る時期は、地域の気候や宿の雰囲気で変わります。庭や近くの山に咲く花を使う宿もあり、それがその宿らしさになるんです。
お客様から「この花は何ですか」と聞かれたら、地元に咲く花だと伝えられるとうれしいですよね。旅の思い出にもつながる、小さなおもてなしです。
玄関と廊下は、通る人のじゃまにならない置き方を
玄関や廊下の花は、大きく華やかにしたくなる場所です。ただ、荷物を持ったお客様や配膳の仲居さんが通るので、通り道に枝が張り出さないように置きましょう。
例えば、玄関では靴を脱ぐ場所から少し離した脇に、廊下では曲がり角の先に目線が止まる高さで飾ると、ぶつかる心配が減ります。お子様連れのお客様が多い日は、倒れにくい重めの花器にしておくと安心ですよ。
床の間の飾り方の基本は?
床の間は、正面の壁に掛け軸を掛け、床の上に花や置物を飾る場所です。3つを同じ季節の景色でそろえると、まとまりが出ます。
床の間の飾り方は、流派や宿の方針で違います。ここでは、旅館の客室で取り入れやすい基本をまとめました。
- 床の間のほこりを払い、床と壁をきれいにする
- 季節に合った掛け軸を正面に掛ける
- 掛け軸の景色とぶつからない花を選んで生ける
- 置物を飾る場合は、花と並べすぎず余白を残す
- お客様が座る位置から眺めて、向きと高さを直す
例えば、掛け軸に紅葉が描かれているなら、花は色の控えめな秋草にしてみてください。同じ赤を重ねるより、景色が落ち着いて見えます。
床の間の前は上座になる
床の間がある座敷では、床の間の前、とくに床柱の前がいちばんの上座とされています。旅館では、夕食の時にお客様に床の間を背にして座っていただくことが多いです。

床の間の歴史をたどると、室町時代の「押板」が起源とされています。押板には香炉・花瓶・燭台からなる三具足を置き、16世紀後半に床の間と呼ばれるようになったそうです。
床の間にお客様の荷物置き場の案内を置いたり、宿のお知らせを貼ったりすると、季節の景色が台無しになってしまいます。案内の紙は座卓の上など別の場所にまとめておきましょう。
花を長くきれいに見せる手入れと見回り
花は生けた瞬間より、お客様が見る時にきれいなことが大切です。毎日の見回りと手入れの順番を決めておくと、館内の花がいつも整って見えます。
『せっかく生けたのに、翌日にはしおれてしまった』という経験はありませんか。手入れを少し足すだけで、花のもちはぐっと変わるんです。
- 花器の水が減っていないか、濁っていないか
- しおれた花や落ちた花びらが残っていないか
- 花の向きが、お客様の通る方を向いているか
- 花器のまわりに水がこぼれていないか
- 掛け軸や置物が季節に合ったままか
チェックアウトの後、客室を整える時間に床の間の花も見直す宿が多いです。女将の1日の流れは女将の1日で紹介しています。
香りの強い花は、置く場所を考える
香りの強い花は、玄関など広い場所では華やかに感じられます。ただ、食事をする客室や狭い廊下では、料理の香りとぶつかることも。
客室の床の間には、香りの控えめな花を選ぶと安心です。お客様のご要望で、花を下げてほしいと言われた時は、すぐに応じましょう。
花の状態に合わせて、手入れの仕方を変える
花は、状態によって手入れの仕方が変わります。見回りの時に、次のような目で見てみてください。
| 花の状態 | 手入れの例 |
|---|---|
| 水が濁ってきた | 花器を洗って水を入れ替え、茎の先を少し切り戻す |
| 一部の花がしおれた | しおれた花だけ抜いて、残りで形を整え直す |
| 枝ものの葉が落ち始めた | 落ちた葉を拾い、枝の向きを変えて見え方を直す |
| 全体に元気がない | 新しい花に生け替え、季節が進んでいれば花材も替える |
全部を一度に生け替えなくても、少しずつ手を入れれば、花は長く楽しめます。
生け花を習っていなくても、しつらえはできる?
生け花を習っていると、花の選び方や生け方に自信が持てます。ただ、旅館のしつらえは、先輩や女将のやり方を見ながら現場で覚えていく人も多いんです。
『華道の免状がないと女将になれない?』と心配する方もいるかもしれません。生け花は、女将になるための決まった条件ではありません。
- 花材の選び方と組み合わせ方
- 花器に合わせた形の整え方
- 花を長くもたせる扱い方
- 先輩が生けた花をよく観察する
- まずは一輪挿しから始める
- 季節の花の名前を少しずつ覚える
旅館の女将の仕事には、生け花だけでなく、着物や言葉遣い、お茶など、さまざまな教養が生きてきます。どんな仕事があるかは女将の仕事内容でまとめています。
例えば、仲居として働き始めて、玄関の花の水替えを任されるところから学んでいく人もいます。毎日花にふれるうちに、季節の移り変わりが自然と分かってくるんですね。
花やしつらえに関わってみたくて、旅館で働くことに興味がわいた方もいるかもしれません。旅館やホテルの仕事を探す時は、宿泊業界の求人に詳しい相談先を使う方法もあります。
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しつらえと生け花のよくある相談
しつらえや生け花については、言葉の意味から、仕事として生かす方法まで、さまざまな相談が寄せられています。よく読まれているものに答えますね。
「しつらえ」の意味は?「あつらえる」とどう違う?
「しつらえ」とはどういう意味か、また「しつらえる」と「あつらえる」の違いを知りたい、という相談がとても多く読まれています。
しつらえるは、部屋や道具を整えて準備することです。あつらえるは、注文して自分の好みに合わせて作ってもらう時に使うことが多い言葉です。
旅館で「季節のしつらえ」と言う時は、花や掛け軸で部屋を整えることを指します。
床の間のない部屋では、どこに飾ればいい?
今の家や部屋には床の間がないことも多く、季節の飾りをどこに置けばいいか迷う、という相談もあります。
棚の上や玄関の靴箱の上など、目線が止まる場所を1か所決めるのがおすすめです。小さな敷板を敷いて、一輪挿しと季節の置物を並べるだけでも、床の間のような景色になります。
旅館でも、洋室には床の間の代わりに飾り棚を設けていることがあります。
着物や茶道、生け花を仕事に生かすには?
学校で茶道や生け花を続けていて、それを仕事にできないか考えている、という相談も見かけます。
旅館は、着物を着て、お茶をお出しし、季節の花を整える仕事が毎日ある場所です。好きなことを生かせる職場の1つとして、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
旅館での過ごし方やお客様側の楽しみ方は旅館のマナー、おもてなし全体の考え方は女将のおもてなしとはも参考にしてみてください。
よくある質問
旅館の生け花は、誰が生けているのですか?
宿によって違います。女将が自分で生ける宿もあれば、仲居や専門の方にお願いしている宿もあります。家族で営む小さな宿では、女将が毎日手入れをしていることも多いです。
床の間の飾り方に決まりはありますか?
流派や宿の方針で違いますが、正面に掛け軸、床の上に花や置物を飾るのが基本です。季節をそろえて、余白を残すとまとまりが出ます。
しつらえと装飾は何が違いますか?
しつらえは、飾ることだけでなく、お客様を迎えるために部屋を整えて準備することまでを含む言葉です。季節や相手に合わせて整える気持ちが込められています。
客室の花が苦手な場合、下げてもらえますか?
苦手な時は、遠慮せずに仲居さんやフロントに伝えてみてください。宿の側も、お客様が気持ちよく過ごせることをいちばんに考えています。
生け花を習っていないと、旅館で働けませんか?
そんなことはありません。旅館のしつらえは、現場で先輩や女将のやり方を見ながら覚えていく人も多いです。興味があれば、働きながら習い始めるのも良い方法です。
まとめ
- 旅館の生け花やしつらえは、季節とおもてなしの気持ちを伝えるためのもの
- 玄関・帳場まわり・客室の床の間・廊下の4か所で、それぞれ役割を分けて飾る
- 床の間は掛け軸・花・置物を同じ季節でそろえ、余白を残す
- 生けた後の水替えや見回りが、しつらえを美しく保つ鍵になる
- 生け花を習っていなくても、現場で覚えていくことができる





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