着物の所作と立ち居振る舞い|女将に学ぶ美しい動き方

着物の所作と立ち居振る舞いを紹介する記事のアイキャッチ。廊下を歩く着物の後ろ姿

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着物を着る日が近づいて、『着物のときって、どう動けばいいんだろう』と落ち着かない気持ちになっていませんか。旅館の女将さんのように、すっと美しく動けたら素敵ですよね。

結論から言うと、着物の所作は「袖」「裾」「背すじ」の3つを意識するだけで、見違えるほど整います。難しい作法を全部覚えなくても大丈夫です。

この記事を読むと、場面ごとの動き方と避けたい動き、和室で知っておきたい決まりごとが分かります。

目次

着物の所作は、まず3つだけ意識すれば大丈夫

先に結論

着物の所作で大事なのは、袖が揺れすぎないこと、裾が乱れないこと、背すじが伸びていることの3つです。どの場面でも、この3つに気を配れば美しく見えます。

『着物の作法って、覚えることが多すぎて…』と感じている方も多いはずです。実は、細かい作法の多くは、この3つを守るための工夫なんです。

例えば、物を取る時に袖口を押さえるのは、袖が揺れて物に触れないようにするためです。座る時に裾を押さえるのは、裾が開かないようにするためです。

3つのポイントを表にしてみる

意識することなぜ大事か気をつけたい場面
袖揺れると物に触れたり、腕が見えたりしやすい手を伸ばす、物を渡す、お茶を出す
裾開くと足が見え、着崩れのもとにもなる歩く、座る、立つ、階段
背すじ丸まると衿元や帯がくずれて見えるお辞儀、座っている時、立ち止まった時

この3つは、旅館の女将が1日中くり返している動きそのものです。女将の仕事や立場は、女将とは?で紹介しています。

洋服の時と何が違う?

洋服では、袖や裾を気にすることはあまりありませんよね。着物では、袖が長く、裾が体に巻きつくように重なっているので、動き方そのものを少し変える必要があります。

ただ、特別な体の使い方が要るわけではありません。いつもより少しゆっくり、少し小さく動く、と思っておけば十分です。

着物の種類で、動きやすさは少し変わる

訪問着や付下げのように改まった着物の日は、動きも一段とゆっくりめにすると装いに合います。着物の種類と格は女将の着物で紹介しています。

着物の立ち居振る舞い、5つの場面のポイント

場面ごとに「ポイント」と「避けたい動き」をセットで覚える

着物の立ち居振る舞いは、歩く、座る・立つ、物を渡す、襖や障子の開け閉め、階段の5つの場面に分けると覚えやすくなります。

『結局、どの場面で何に気をつければいいの?』と迷いますよね。まずは5つの場面を一覧で見てみましょう。

場面ポイント避けたい動き
歩く歩幅を小さめにして、膝から下を前に出す大股で歩いて、裾が大きく割れる
座る・立つ裾を押さえてから、ゆっくり腰を落とす勢いよく座って、裾が開く
物を渡す両手で持ち、袖口をもう片方の手で押さえる片手を伸ばして、袖がたれ下がる
襖・障子の開け閉め膝をついて、体の向きに近い手で開ける立ったまま片手で一気に開ける
階段上前の裾を軽く押さえて、体を少し斜めにする裾を踏みそうなまま、足早に上り下りする
着物の所作を、歩く・座る立つ・物を渡す・襖の開け閉め・階段の5つの場面に分けて、ポイントをまとめた図解

ここからは、場面ごとにもう少し詳しく見ていきます。

歩く時は、小さめの歩幅で

着物で歩く時は、いつもより歩幅を小さくするのが基本です。膝から下を前に出すようにすると、裾が割れにくくなります。

つま先を少し内側に向けると、上前の裾が開きにくいとよく言われます。無理に内股にするのではなく、まっすぐ前に足を出すくらいの気持ちで大丈夫です。

廊下でお客様を案内する時は、ゆっくりした歩幅のほうが、お客様も歩きやすくなりますよ。

座る時・立つ時は、裾を押さえてから

座る時は、上前の裾を手で軽く押さえてから、ゆっくり腰を落とします。正座に移る時に、膝の裏で裾をなでつけるようにすると、座った後のしわが少なくなります。

立つ時は、いきなり立ち上がらず、一度つま先を立ててから腰を上げます。片方の膝を少し前に出してから立つと、裾が乱れにくくなります。

正座から立つ流れの例
  1. 背すじを伸ばしたまま、両足のつま先を立てる
  2. 片方の膝を少し前に出す
  3. 上前の裾を手で軽く押さえる
  4. 前に出した足に体重をかけて、ゆっくり腰を上げる
  5. 立ち上がったら、裾と衿元を手で整える

物を渡す時は、両手と袖口

物を渡す時は、両手で持つのが基本です。片手で物を持つ時は、もう片方の手で袖口を軽く押さえると、袖がたれずにすみます。

例えば、お客様に館内の案内書をお渡しする時なら、こんなふうに動きます。

「こちらが館内のご案内でございます」と声をかけ、案内書の向きをお客様が読める向きに直してから、両手で差し出します。

高いところの物を取る時も、袖口を押さえると腕が見えにくくなります。手を伸ばす前に、袖口に手を添える癖をつけておくといいですよ。

お盆で物を運ぶ時は、胸より少し下で

お茶やお料理をお盆で運ぶ時は、両手でお盆の左右を持ち、胸より少し下の高さで運ぶと安定します。お盆を高く持ちすぎると、袖が落ちて腕が見えやすくなるんです。

客室に入る時は、お盆をいったん畳の上に置いてから襖を開けます。両手がふさがったまま襖に手をかけようとすると、お盆が傾いてしまうからです。

座卓に置く時は、お客様に背中を向けないよう、少し体を斜めにして近づきます。器は手前から順に、音を立てないようにそっと置いていきましょう。

襖・障子の開け閉めは、膝をついて

襖や障子の開け閉めは、座った姿勢で行うと落ち着いて見えます。小笠原流礼法の解説では、襖の開閉など途中の動作を座って行う時は、正座ではなく跪座(きざ)の姿勢で行うとされています。

同じ解説では、体の中心より右にあるものは右手、左にあるものは左手で扱うのが基本とされています。取っ手のやや下に手を添えると、なめらかに開け閉めできるそうです。

よくある失敗

急いでいる時ほど、立ったまま襖を一気に開けてしまいがちです。客室の襖を勢いよく開けると、中のお客様が驚いてしまうので、外で声をかけてから、膝をついてゆっくり開けてみてください。

階段は、裾を軽く押さえて

着物で階段を上る時は、上前の裾を少しつまむように押さえると、裾を踏みにくくなります。体を少し斜めにして上ると、裾が足にからみにくくなります。

下りる時は、足元が見えにくいので、手すりがあれば使いましょう。お客様をご案内している時は、「足元にお気をつけくださいませ」とひと声かけると親切です。

女将の所作が美しく見えるのはなぜ?

美しさは「ゆっくり」「手を添える」「止まる」から生まれる

女将の所作が美しく見えるのは、特別な技を持っているからではありません。一つひとつの動きをゆっくり行い、物に手を添え、動きの区切りで止まることを、毎日くり返しているからです。

旅館で女将さんの動きを見て、『どうしてあんなに優雅に見えるんだろう』と思ったことはありませんか。よく見ると、いくつかの共通点があるんです。

女将の所作に見られること見る人に伝わる印象日常で取り入れる方法
動きがゆっくりしている落ち着き、余裕手を動かす速さを、いつもの半分くらいの気持ちにする
物に両手を添えている丁寧さ、物を大切にする気持ち湯呑みや本を、両手で持つ
動きの区切りで一度止まるきちんとした印象物を置いたら、手を離す前にひと呼吸置く
視線が先に動く気配り物を取る前に、まず目で見てから手を伸ばす

女将の所作は、お客様のための動き

女将の所作は、自分をきれいに見せるためだけのものではありません。お客様を驚かせない、待たせすぎない、安心してもらうための動きでもあるんです。

例えば、客室でお茶をお出しする時は、お客様の手の届きやすい位置に、湯呑みの正面を向けて置きます。お茶出しの手順は旅館のお茶の入れ方で詳しく紹介しています。

旅館の1日で、女将の所作が出る場面

女将の所作は、特別な時だけのものではありません。お客様を迎えてから送り出すまで、1日のあちこちに出てきます。

1日の流れ所作が出る場面意識していること
お出迎え玄関でのご挨拶、お荷物をお預かりするお辞儀のあとに一度止まり、お荷物は両手で受け取る
客室へのご案内廊下を歩く、客室の襖を開けるお客様の歩く速さに合わせ、襖は膝をついて開ける
客室でのご挨拶座礼、お茶をお出しする下座の側で座り、湯呑みは両手で扱う
夕食の時間器を置く、お酌をする袖口を押さえて手を伸ばし、器は音を立てずに置く
お見送り玄関でのお礼、お車までお送りする最後のお辞儀を丁寧にし、姿が見えなくなるまで見送る

どの場面でも、袖・裾・背すじの3つと、ゆっくり動くことが土台になっています。場面が変わっても、気をつけることはそれほど多くないんです。

『お客様の前だと緊張して、つい動きが速くなってしまう』という方もいますよね。そんな時は、物を置いた後や、お辞儀の後に、ひと呼吸だけ止まってみてください。それだけで、ずいぶん落ち着いて見えます。

お辞儀にも、所作のコツが詰まっている

小笠原流礼法の解説では、お辞儀は頭だけを下げるのではなく、上体を腰から曲げるとされています。息を吸いながら上体を倒し、吐く息でとどまり、吸いながら上体を戻す方法も紹介されています。

「ゆっくり」「止まる」という女将の所作の基本が、お辞儀にもそのまま入っているんですね。立礼と座礼の種類は女将のお辞儀と座礼で紹介しています。

旅館の客室で、着物の袖口を押さえながら座卓に湯呑みを置く手元をイメージした写真

和室で知っておきたい決まりごと

「踏まないもの」と「上座」を押さえておく

和室では、敷居を踏まないことと、床の間の前が上座になることを覚えておくと安心です。一方で、昔から言われてきたことの中には、礼法の決まりではないものもあります。

『畳の縁は踏んではいけないって聞いたけど、本当?』と気になっている方もいますよね。ここは、意外な答えが返ってくるところなんです。

畳の縁と敷居、踏まないのはどっち?

小笠原流礼法の宗家の解説では、畳の縁を踏まないという決めごとは、礼法には「ありません」とされています。畳の縁を踏まずに和室の中を動くのは、そもそも無理があるからだそうです。

一方で、敷居を踏んではいけない理由ははっきりしています。同じ解説によると、敷居と柱はつながっていて、家を支える大事な部分だからです。

気をつけたいこと
  • 敷居は踏まずに、またいで部屋に入る
  • 襖の開け閉めは、膝をついて体に近い手で行う
  • 床の間の前の席は、お客様にお譲りする
礼法の決まりではないとされること
  • 畳の縁を一度も踏まないように歩くこと
  • 縁を避けるために、大股やすり足を無理にすること
  • 縁を踏んだお客様に注意すること

畳の縁を気にしすぎて動きがぎこちなくなるより、自然に歩くほうが美しく見えます。ただ、宿や家によっては縁を踏まないよう教えるところもあるので、その場合は宿のやり方に合わせましょう。

上座はどこ?

百科事典では、座敷の上座は正面の中央ですが、床の間がある場合は床柱の前がいちばんの上席とされています。入口に近いほうが下座です。

お客様をお部屋にご案内したら、上座の席をおすすめします。自分は入口に近い下座の側で、ご挨拶をします。

席位置誰が座るか
上座床の間の前、入口から遠い席お客様、目上の方
下座入口に近い席迎える側、女将や仲居

例えば、ご家族で泊まりに来られたお客様を客室にご案内した時なら、こんなやりとりになります。

「どうぞ、床の間のお席へお座りくださいませ」

「ありがとう。おばあちゃん、こっちに座って」

席を決めるのはお客様です。おすすめはしても、無理に座っていただく必要はありませんよ。

着物の所作を身につける練習の進め方

毎日の生活の中で、一つずつ練習する

所作は、知識として覚えるより、体に覚えさせるほうが早く身につきます。洋服の日でも練習できることはたくさんあります。

『所作を身につけたいけど、着物を着る機会があまりない』という方も多いですよね。実は、洋服の時でも練習できることがあるんです。

所作が身につくまでの流れの例
  1. 洋服の日から、物を両手で持つ、置いたら一度止まる、を意識する
  2. 鏡の前で、正座から立つ、立ってから座るを、ゆっくりくり返す
  3. 浴衣を着て、歩く、座る、階段を上り下りする
  4. 着物を着て、家の中で1日過ごしてみる
  5. 着物で外出して、物を渡す、襖を開けるなどの場面を経験する

練習で確かめたいこと

練習の時は、誰かに見てもらうか、鏡やスマートフォンで動きを撮ってみると、自分では気づかない癖が分かります。

練習の時のチェック
  • 歩く時に、裾が大きく割れていないか
  • 座る前に、裾を押さえているか
  • 物を渡す時に、袖口を押さえているか
  • 動きの区切りで、一度止まっているか
  • 背すじが丸まっていないか

所作は、毎日少しずつ意識するだけで変わっていきます。一度に全部を直そうとせず、今週は歩き方、来週は座り方、のように一つずつ取り組んでみてください。

着付けが整うと、所作も整う

着付けがゆるいと、どんなに気をつけて動いても着崩れてしまいます。反対に、着付けがしっかりしていると、動いても形が崩れにくくなります。

自分で着物を着る手順は、女将の着付けで紹介しています。

着物の所作でよくある相談

質問サイトにも、着物の所作や立ち居振る舞いについての質問がたくさん寄せられています。閲覧の多いものから、この記事のテーマに合う3つを選び、要約してお答えしますね。

相談1:着物でスピーチをする時、原稿はどう持てばいい?

式典で着物を着て挨拶をすることになったけれど、原稿をどう持てばいいか分からない、という質問です。

原稿は、両手で胸の少し下あたりに持つと、袖がたれずにすみ、姿勢もきれいに見えます。読む時に原稿を高く上げすぎると、袖が落ちて腕が見えやすくなるので気をつけましょう。

お辞儀をする時は、原稿を両手で持ったまま、上体を腰から倒すと落ち着いて見えます。読み終わったら原稿をたたみ、一礼してから下がりましょう。

相談2:着物で立ち居振る舞いに気をつけることは?

結婚式などで着物を着る予定があり、立ち居振る舞いで注意することを知りたい、という質問です。

まずは、この記事の5つの場面のうち、当日によくある場面を練習しておくのがおすすめです。結婚式なら、歩く、座る・立つ、物を渡す、の3つでしょう。

特に、椅子に座る時は、背もたれに寄りかからずに浅めに腰かけると、帯の形が崩れにくくなります。席を立つ時は、裾と袖を手で整えてから歩き出してみてください。

相談3:座っているうちに、お尻のあたりにしわができてしまう

着物を着て座っていたら、お尻のあたりにしわができ、どう直せばいいか分からない、という質問です。

座る時に裾を押さえず、そのまま腰を下ろすと、お尻や膝の裏にしわが寄りやすくなります。座る前に、手でお尻から膝の裏にかけて着物をなでつけておくと、しわが少なくなります。

立ち上がったら、一度裾を軽く引いて整えてみてください。気になる時は、人目のないところで後ろの裾を手で整えると、かなり目立たなくなりますよ。

旅館の仕事に興味が出てきた方へ

着物の所作を学ぶうちに、『着物を着て働く仕事に就いてみたい』と感じた方もいるかもしれませんね。旅館では、女将だけでなく仲居さんなど、着物で接客する仕事もあります。

旅館の仕事は、ハローワークや求人サイト、宿の公式サイトの募集でも探せます。宿泊業界の求人を扱う転職支援サービスに、着物を着る仕事に興味があることを伝えて相談してみる方法もあります。

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よくある質問

着物の所作は、着付け教室で教えてもらえますか?

教室によって違います。着付けと一緒に、歩き方や座り方を教えてくれる教室もあります。気になる時は、申し込む前に聞いてみてください。

畳の縁は、本当に踏んではいけないのですか?

小笠原流礼法の宗家の解説では、畳の縁を踏まないという決めごとは礼法には無いとされています。一方で敷居は家を支える大事な部分なので、踏まないようにしましょう。

着物で椅子に座る時は、どうすればいいですか?

背もたれに寄りかからず、浅めに腰かけると帯の形が崩れにくくなります。座る前に裾を押さえ、座ったら袖を膝の上にまとめておくと、きれいに見えます。

女将の所作を身につけるには、どのくらいかかりますか?

決まった期間はありません。毎日少しずつ意識して、一つずつ身につけていくものです。旅館で働いている人は、先輩の動きを見ながら覚えていくことが多いです。

浴衣でも、同じ所作で大丈夫ですか?

基本は同じです。浴衣は着物より生地が軽いので、裾が開きやすいこともあります。歩幅を小さめにして、座る時に裾を押さえることを意識してみてください。

まとめ

この記事の要点
  • 着物の所作は、袖・裾・背すじの3つを意識するだけで整う
  • 歩く、座る・立つ、物を渡す、襖や障子の開け閉め、階段の5つの場面で覚える
  • 女将の所作が美しく見えるのは、ゆっくり動き、手を添え、区切りで止まるから
  • 敷居は踏まない、床の間の前が上座、畳の縁は礼法の決まりではないとされる
  • 所作は、洋服の日から一つずつ練習して身につけていく
女将ガイド

女将ガイド 編集部

旅館の女将・若女将の仕事と役割、女将になるまでの道のり、着物や立ち居振る舞い、旅館のしきたりとおもてなし、旅館・料亭で働く方法までを、やさしく整理している情報サイトです。 公式サイト

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